2018年12月21日
養育費 回収のための基礎知識(1)
子どもを抱えた夫婦が離婚した場合、子どもを抱えた側(一般的に母親であることが多い)
が、離婚後の人生を歩む上、養育費を安定的に確保できるかは極めて重要です。また
子ども自身にとっても、成人し自立するまでの間養育費を安定的に受領できることは、様々
な経験や教育上の機会を得るための重要なファクターでもあります。
両親が離婚し片方の親を失った未成熟の子ども達にとって極めて重要な養育費が支払
われなくなった場合に、いかに法的に回収していくべきかについて用意されている4つの
制度を4回に分けて解説していきます。初回は、履行勧告を取り上げます。
なお、制度利用の前提として、離婚時もしくは離婚後に、養育費について家庭裁判所で
の調停などの手続もしくは公正証書で取り決めをしていることが必要になります。
1:履行催告
①履行催告とは
養育費の支払を受けていない権利者の申出があるときに、家庭裁判所が審判または
調停等で決められた養育費の支払状況等を調査し、支払義務を負う者に支払の履行を
勧告する制度です(家事事件手続法289条、以下同法と称します)。審判または調停等
に関与した家庭裁判所が申出先になります(管轄といいます)。
②権利者の申出とは
申出の方式について特に決まりはなく、書面だけでなく、口頭や電話でもよいとされて
います。 ただ実際の運用は、事実確認のため支払根拠を示す書類が必要となるでし
ょう。また申出に手数料は要しないとされているため、無料で利用できる制度です。
また、効果が上がるまで何回でもすることができます。
③対象となる事項
養育費の請求などの金銭請求だけでなく、夫婦間の同居義務や未成年の子の引渡
義務などにも利用できます。
④履行勧告の前提としての調査
履行勧告を行う前提として、家庭裁判所(具体的には家庭裁判所調査官)には、各種
調査を行うことが認められています(家事事件手続法289条3項)。
具体的には、支払義務者の支払能力や生活状況・支払意思から支払を受ける側との
感情的な対決状況にまで及びます。また銀行等などへ報告を求めることもでき(同法
289条5項)、事実上の資産調査までできることになります。
⑤履行勧告の方法
勧告も、申出と同様特定の方法が定められているわけではなく、書面でも口頭でも
構わないとされています。
⑥制度の実情と実績
実際は申出を受けた後、事情を聴取した上で、勧告趣旨・履行期限・担当者名を
伝えることも兼ねて書面での勧告をすることが多く、書面勧告での反応がない場合
や緊急の場合などで、電話による聴取や勧告になるそうです。
また義務者への事情調査と並行して、権利者へ支払に苦慮している義務者の説
明を伝えたり、履行勧告が功を奏しない場合の強制執行手続の説明をすることも
あるようである。
少し古いデータですが、平成25年度に、金銭関係で行われた履行勧告数は
15,188件で、その内で全部履行されて件数は、5,061件、一部履行は3,132件
となっています。勧告総数の半分以上で何らかの効果があるということがうか
がえます。このデータをどう評価するかは人それぞれでしょうが、無料であること
を考慮すると、コストパフォーマンスはいいと言えるのではないかと個人的には
感じます。
⑦課題
支払義務者がつい忘れていたケースなどには有効と言えますが、そもそも支
払う意思がないケースでは別の制度の利用を考える必要があります。
次回は、履行命令を取り上げます。
参考文献
日弁連家事法制委員会編
『家事事件における保全・執行・履行確保の実務』294頁~303頁
320頁~343頁
*養育費の相談は、昨年5月の独立後初めて手がけた仕事でもあるので思い入れがあります。
養育費に関して相談などありましたら当事務所まで是非ご一報を。なお初回相談は無料でさ
せていただいております。
以上
Posted by つばめ at 15:00│Comments(0)
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