給与ファクタリングとヤミ金(最近の月報記事から)  

つばめ

2020年11月30日 19:11

  
    最近更新が空いてしまいましたが、少しシリーズのタイトルを変えて再開します。

   2020年7月の月報司法書士の特集は、成年後見制度や民事信託についてでした。

   今回取り上げたい記事は、コロナ禍以降新聞でも取り上げられる機会が増えている
 
   給与ファクタリングに関する記事(66頁~69頁)です。

  1. ファクタリングとは

   (1) 定義

    ファクタリングという言葉そのものは、一般的にあまりなじみがないと思います。

   記事によると、ファクタリングとは、「ファクタリング会社とよばれる機関が、一般企業

   より売掛債権を買い取って金融を供与する取引」と定義されています。

   (2) 手形割引との違い

     似たような取引に手形割引があります。手形割引の場合、手形の発行者(振出人と

   いいます)が支払いをできない場合、割引を依頼した手形の受取人が代わりに支払い

   義務を負います。しかしファクタリングでは、同様のケースで売掛債権を売った側に代
 
   払いの義務を負いません。つまりファクタリング会社が支払い不能のリスクを負います。

   そのため、手形割引と比べて手数料が高くなる傾向にあります。また、手形割引には

   貸金業法の適用がありますが、ファクタリングは形式的に債権譲渡のため適用がない

   ことも大きな違いです。
 
  (3) ヤミ金の参入
 
    数年前から、主に貸金業法の適用がないことに目を付けヤミ金が参入していると言

   われています。当初は、杜撰な契約形式で取引されていたようですが、徐々に契約書

   式を整える、債権譲渡登記を行う、顧問弁護士を置く など、一見ヤミ金か否か見分け

   がつかなくなっているそうです。

    記事によると、ファクタリングが、貸金に該当するか否かは、手数料・契約の継続性

   回収リスクの負担の有無、がポイントだそうです。ファクタリングは前述のように債権

   譲渡なので、本来単発の取引なはずです。しかし継続的に取引が行われている場合
 
   は、債権を担保とした貸金と認識されやすくなります。また、手数料を年利換算した場
   
   合に出資法上の上限金利を大きく超えるようだと、ヤミ金と認識して良いでしょう。また

   譲渡された債権が回収不能となった場合、譲渡人に対してファクタリング会社が請求

   できる権利(償還請求権)が付与される場合でも貸金と認識されやすいとされています。

    金融庁も、①譲受人に対して償還請求を付与、②売掛先(対象債権の債務者)への
   
   通知、もしくは売掛先の譲渡承諾が不要とされている、③債権回収を、ファクタリング

   会社から譲渡人に委託されている に該当する場合は、ヤミ金の可能性が高いとホーム
 
   ページ上で注意喚起しています*1。

  2. 給与ファクタリングの登場


   (1) 定義

    上記ファクタリングの変則型が、給与ファクタリングです。給与ファクタリングとは、「顧客

   が勤務先に対して有する給与債権(またはその一部)をファクタリング会社に譲渡すること

   で、給与債権を給料日前に現金化する手法」とされています。

   (2)SNSの利用

     ファクタリング会社は、SNSなどで「給与の前借り」を謳い文句に宣伝。給料日までに

   手持ち資金が無い人々を中心に利用が全国に拡大しました。また「ブラックOK」という

   謳い文句を背景に多重債務者の間でも利用が広がりました。給与債権の債権譲渡とい

   いつつ債権譲渡の通知を留保しているため、勤務先に知られることがないことが増加し
 
   た一因と言われています。

     具体的な取引は、メールやSNS等で顧客と業者が債権譲渡契約を締結しますが、

   本来債権譲渡の対抗要件(当事者以外にも効力を主張できる効力)として認められた

   債務者(=勤務先)への通知等を行いません(よって勤務先には知られません)。そし

   て業者からの無償委託により債権回収でもある給与の受取を顧客が行ったうえで、当

   該給与を、業者へ引き渡すという流れになります。

    そもそも労働基準法24条に関する判例では、労働者が事前に給与債権を譲渡して

   も、勤務先は(譲渡した)労働者へ「直接」賃金を支払わなければならず、譲受人は支払

   いを求めることはできないとされています(最高裁昭和43年3月12日判決)*2。

    金融庁も、給与ファクタリングに関して『賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付

   だけでなく、賃金債権の譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシス

   テムが構築されているということができ、当該スキームは、経済的な貸付け(金銭の交付

   と返還の約束が行われているもの)と同様の機能を有しているものと考えられているから
 
   貸金業法第2条第1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に該当す

   る」との一般的解釈を示しています*1。

    
    以上が記事の紹介ですが、私も昨年個人事業主の方からファクタリング取引について

   相談を受けたことがあります。当時と比べると、現在はコロナの影響による雇用情勢の

   悪化や給与減のニュースがよく取り上げられ、ますます被害の増加が懸念される状況

   です。給与ファクタリング等の被害が増加しないことを祈るばかりです。

  *1  ファクタリングに関する注意喚起 https://www.fsa.go.jp/user/factoring.html

  *2  裁判所HPより判決内容を確認できる。
     https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53985        
                                             

                                                  以   上

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